生成AIで業務改善を始める前に必要な「現状業務の棚卸し」|総務省・IPA・中小企業白書のデータから

生成 AI を導入したが、議事録とメールの下書き以外に使い道が広がらない。経営層から「どの業務に使えば効果が出るのか」と聞かれて、答えられない。この記事は、その状態の原因と、次の一手を書いています。
総務省の令和8年版情報通信白書によると、生成 AI の活用方針を把握している日本企業のうち、何らかの業務で生成 AI を利用している割合は86.4%(2025年度調査)でした。業務の類型別では「議事録・メール作成補助」が約7割で最も多く、「営業・販売」が約6割、「社内ヘルプデスク」が約5割と続きます。利用は広がりましたが、用途は文章作成の補助に偏っています。
この記事で分かるのは、用途が広がらない理由についての編集部の考え、棚卸しで作る3つの成果物、AI に向く工程を見分ける4つの条件、1業務・1工程・2週間で小さく試す進め方です。
生成 AI の利用は広がったが、用途は偏っている
総務省の令和7年版情報通信白書(2024年度調査)では、生成 AI を何らかの業務で使っている日本企業は55.2%で、「メールや議事録、資料作成等の補助」に使っている企業は47.3%でした。令和8年版(2025年度調査)では、活用方針を把握している企業のうち利用している割合は86.4%でした。白書は、他の3か国(米国・ドイツ・中国)との差が縮まったとしています。ただし、2つの年度の調査は対象と推計方法が異なるため、単純な比較はできません。
一方、令和7年版の同白書では、生成 AI 導入に際しての懸念として、日本では「効果的な活用方法がわからない」が最も多く挙げられていました。次いで「社内情報の漏えい等のセキュリティリスク」「ランニングコストがかかる」「初期コストがかかる」が続きます。使ってはいるが、自社のどの業務に効くかが分からない、という状態です。
用途を広げるには、業務の記録から始める
編集部は、「効果的な活用方法がわからない」という懸念の中身を、「自社の業務のうち、どの工程が、どんな入力を受けて、どんな出力を出しているか」が記録されていないことだと考えています。議事録とメールに用途が集中するのは、この2つが、どの会社でも入力(会話・用件)と出力(文章)が明確で、記録がなくても分かる工程だからです。
中小企業庁の2025年版中小企業白書には、段階別の意向の差を示すデータがあります。デジタル化の段階別に「DX に向けてこれから取り組もうとしていること」を見ると、「生成 AI や IoT の活用」を挙げた事業者の割合は次の通りでした。段階1(紙や口頭が中心)は2.8%、段階2(デジタルツールを利用)は12.9%、段階3(業務効率化・データ分析、業務フローの見直し)は24.7%、段階4は23.2%です。業務フローを見直す段階にいる事業者ほど、生成 AI を次の打ち手として挙げた割合が高くなっています。
段階1の事業者では、「特にない」が49.3%を占めます。編集部は、生成 AI の使い道が見つからない主な理由を、ツールの性能ではなく、業務の記録がなく当てはめる先が見えないことだと考えています。
棚卸しで作る3つの成果物
棚卸しは、業務の可視化と同じ3つの成果物を作ります。生成 AI の用途を探す目的では、工程ごとに「入力・出力・判断基準」の3項目を付け加えます。
- 業務一覧。部署の業務を、名称・担当・頻度・使うシステムで一覧にします。
- 業務フロー図。業務ごとの流れと、担当の受け渡し、判断の分かれ目を描きます。作り方は業務フロー図の作り方で扱っています。
- 工程ごとの数量と、入力・出力・判断基準。月あたりの件数、1件あたりの時間に加えて、その工程が何を受け取り(メール、帳票、画像、音声)、何を出すか(文章、表、システムへの入力)、判断がある場合は何を基準に決めるかを書きます。
3つ目の項目が、生成 AI の用途を決める材料になります。入力と出力が文章や画像で、判断基準を言葉にできる工程は、生成 AI に任せられる可能性が高い工程です。

AI に向く工程を見分ける4つの条件
棚卸しした工程のうち、次の4つの条件を多く満たす工程から試します。4つすべてを満たす必要はありません。満たす数が多い工程ほど、効果が出やすく、失敗したときの影響が小さくなります。
- 入力が文章・画像・音声で、出力が定型に近い。問い合わせメールの分類、請求書の読み取り、会議の録音からの要約などです。
- 判断基準を言葉で書ける。「金額が10万円以上なら上長に回す」のように、基準が明文化できる工程です。「なんとなく」で決めている工程は、先に基準を記録します。
- 件数が多い。月に数件の工程では、試す手間に見合いません。月に数十件以上の工程を優先します。
- 誤りの影響が小さいか、人が確認する工程が後ろにある。AI の出力をそのまま顧客に送る工程ではなく、人が確認してから使う工程から始めます。
小さく試す進め方:1業務・1工程・2週間
生成 AI は、全社に一斉に導入するより、まず試しに使ってみる進め方が向いています。1業務を選び、その中の1工程に絞り、2週間で結果を見ます。
- 工程を1つ選ぶ。4つの条件を最も多く満たす工程を選びます。
- 改善前の数量を記録する。1件あたりの時間と、月の件数を残します。棚卸しで付けた数量をそのまま使います。
- 担当者が2週間使う。AI の出力を人が確認してから使う形で、実際の業務で試します。出力を直した回数と、直した理由を記録します。
- 同じ項目を測る。1件あたりの時間と、直した回数を見て、続けるか、工程を変えるか、やめるかを決めます。
- 次の工程に広げる。効果が出た工程と似た入力・出力を持つ工程を、棚卸しの一覧から探して広げます。
セキュリティの懸念には、試す前に「社内のどの情報を AI に入力してよいか」を決めておきます。顧客の個人情報や未公開の財務情報は入力しない、と最初に線を引けば、担当者が迷わずに試せます。
棚卸しそのものにも AI を使えます。ProcessAI は、担当者が AI と会話した内容(一般的な業務では20〜30分が目安)から業務フロー図の初稿を生成し、工程ごとに自動化できる候補と削減時間の試算を出します。棚卸しのうち、業務フロー図の初稿をヒアリングの時間で作れます。工程ごとの入力・出力と数量は、初稿を見ながら担当者が補います。


棚卸しの最初の工程(ヒアリングと業務フロー図)を AI で短縮したい場合は、ProcessAI をご検討ください。1部門からの試験導入に対応しています。
よくある質問
- どの業務から棚卸しを始めるべきですか。
- 件数が多く、文章や画像の入力が多い業務から始めます。問い合わせ対応、受発注、経理の入力作業などが該当します。生成 AI の効果が数字で見えやすいためです。
- 中小企業でも、棚卸しをしてから生成 AI を使うべきですか。
- 規模にかかわらず必要です。中小企業白書のデータでは、業務フローを見直す段階3の事業者の方が、生成 AI を次の打ち手として挙げた割合が高くなっています。棚卸しの範囲は1業務で構いません。
- セキュリティが心配で、業務データを AI に入れられません。
- 入力してよい情報の範囲を先に決めます。個人情報と未公開の財務情報を除外し、それ以外の工程から試します。利用する AI サービスのデータの扱い(学習に使われるか、保存場所はどこか)も確認します。
- 棚卸しに AI を使うことはできますか。
- できます。ヒアリングの録音から手順を起こす作業、起こした手順を図にする作業は、生成 AI の得意な領域です。AI がヒアリングを行い、業務フロー図の初稿を生成するツールもあります。
出典
ProcessAI
担当者が AI と話すだけで、業務フロー図の初稿ができます
記事で紹介したヒアリングと作図を、AI が音声の会話で行います。一般的な業務では20〜30分の会話が目安です。 業務フロー図の初稿に加えて、自動化できる工程の候補と削減時間の試算が出ます。
- AIどのような部署で、どんなお仕事をされていますか?
- 担当者取引先への見積依頼から発注までを担当しています。
- AI最初は何から始まりますか?
- 担当者仕入先にメールで見積もりを依頼して、届いた見積書の金額と納期を確認します。
- AI確認の後は何をしますか?
- 担当者問題があれば修正を依頼します。問題がなければリーダーに承認を依頼します。
業務フロー図 (初稿)
- 仕入先に見積もりを依頼 (メール)
- 見積書の金額と納期を確認
- ◇ 内容に問題があるか問題あり → 修正を依頼 / 問題なし ↓
- リーダーに承認を依頼
デモ: 見積・発注業務 (架空のデータ)